doc/lltjp-geometry.tex

   1 %#! luajitlatex
   2 \documentclass[a4paper,10pt]{ltjsarticle}
   3 \usepackage[textwidth=45\zw, lines=45, footskip=2\zh, verbose]{geometry}
   4 \usepackage{listings,amsmath,booktabs,lltjext}
   5 \usepackage[match]{luatexja-fontspec}
   6 \usepackage{unicode-math}
   7 \setmathfont{XITS Math}
   8 \setmainfont{TeX Gyre Termes}
   9 \setsansfont[Scale=0.95]{TeX Gyre Heros}
  10 \usepackage[kozuka-pr6n]{luatexja-preset}\normalsize
  11 \def\emph#1{\textbf{\textgt{\mathversion{bold}#1}}}
  12 \def\headfont{\normalfont\bfseries\gtfamily}
  13 \def\pTeX{p\kern-.05em\TeX}
  14 \def\cs#1{\text{\texttt{\char`\\#1}}}
  15
  16 \lstset{
  17   basicstyle=\ttfamily, basewidth=0.5em,
  18 }
  19 \makeatletter\let\SX@Info=\relax\makeatother
  20 \fboxsep=0mm
  21
  22 \usepackage{hyperref,bookmark,xcolor}
  23 \hypersetup{%
  24         unicode,
  25         colorlinks,
  26         allbordercolors=1 1 1,
  27         allcolors=blue,
  28         pdftitle={lltjp-geometryパッケージ}
  29 }
  30
  31 \def\LuaTeX{Lua\TeX}
  32 \definecolor{blue}{rgb}{0, 0.25, 1}
  33
  34 \title{\textsf{lltjp-geometry}パッケージ}
  35 \author{\LuaTeX-jaプロジェクト%
  36   \thanks{\url{http://osdn.jp/projects/luatex-ja/wiki/FrontPage}}}
  37 \begin{document}
  38 \maketitle
  39
  40 ページレイアウトの設定として，\href{http://www.ctan.org/pkg/geometry}%
  41 {\textsf{geometry}パッケージ}が有名であるが，
  42 これはp\LaTeX・\LuaTeX-jaの縦組クラスでは利用が不可能という問題があった．
  43 本文書で解説する\textsf{lltjp-geometry}パッケージは，\textsf{geometry}パッケージを
  44 縦組クラスに対応させるパッチである．
  45
  46
  47 \section{利用方法}
  48 \textsf{lltjp-geometry}パッケージは，\LuaTeX-jaに標準で含まれている．
  49 本パッケージの動作には\href{http://www.ctan.org/pkg/ifluatex}{\textsf{ifluatex}},
  50 \href{http://www.ctan.org/pkg/filehook}{\textsf{filehook}}パッケージが必要である．
  51
  52 \subsection{\LuaTeX-ja}
  53 \LuaTeX-jaでは，\textsf{geometry}パッケージ読み込み時に
  54 自動的に\textsf{lltjp-geometry}パッケージが読み込まれ，ユーザは何もしなくても良い．
  55 \LuaTeX-jaで横組クラスを利用する時でも，
  56 \textsf{lltjp-geometry}パッケージは自動的に動作を停止するので，横組時の挙動が
  57 変わってしまうことはない．
  58
  59 \subsection{\pTeX 系列}
  60 \pTeX 系列では，\textsf{tarticle}, \textsf{tbook}, \textsf{treport}といった
  61 \emph{縦組クラスを使う場合}にのみ，
  62 \begin{lstlisting}
  63 \usepackage{lltjp-geometry}
  64 \usepackage[...]{geometry}
  65 \end{lstlisting}
  66 のように\emph{\textsf{geometry}パッケージの前}に読み込む．
  67 \pTeX 系列では使用クラスが横組か縦組かの自動判定を行えない\footnote{%
  68   標準縦組クラスでは，\cs{begin\{document\}} の内部で組方向を縦組に変更するので，
  69   プリアンブル中で判定できない．
  70 }ので，\emph{横組クラスで読み込んではならない}．
  71
  72 パッケージオプションは存在しない．
  73
  74 \section{\textsf{lltjp-geometry}使用時の注意事項}
  75
  76 \subsection{\texttt{twoside}指定時}
  77 縦組の本は通常右綴じである．これを反映し，
  78 \texttt{twoside} オプション指定時には
  79 \begin{itemize}
  80 \item \texttt{left}, \texttt{lmargin} は小口側の余白，
  81 \texttt{right}, \texttt{rmargin} はノド側の余白を指す．
  82 \item 左右余白比 \texttt{hmarginratio} の標準値は$3:2$に変更．
  83 \item \texttt{bindingoffset} は\emph{右側}に余白を確保する．
  84 \end{itemize}
  85 と変更している．
  86
  87 \subsection{widthとheight}
  88 \cs{textwidth}が字送り方向の長さ（縦）を表すのと同様に，
  89 \texttt{width}, \texttt{totalwidth}, \texttt{textwidth}キーの値も字送り方向を，また
  90 \texttt{height}, \texttt{totalheight}, \texttt{textheight}キーの値も行送り方向（横）を表すようになっている．
  91
  92 しかし，\emph{用紙サイズについては例外}であり，物理的な意味での幅・高さを表す．
  93 \texttt{paperwidth}, \texttt{layoutwidth}はそれぞれ紙の横幅，レイアウトの横幅を，
  94 \texttt{paperheight}, \texttt{layoutheight}はそれぞれ紙の高さ，レイアウトの高さを表している．
  95
  96
  97
  98 \subsection{傍注}
  99 縦組の場合，傍注は本文の上下に配置される\footnote{%
 100   二段組の場合は上下共に，一段組の場合は標準では下側だが，
 101   \texttt{reversemp} が指定されたときには上側に配置される．
 102 }．これにより，\emph{\texttt{includemp}（や \texttt{includeall}）が
 103 未指定の場合，傍注はヘッダやフッタに重なる}．
 104 \texttt{includemp} 指定時は，\cs{footskip}, \cs{headsep} のいずれか
 105 （二段組の場合は両方）を$\cs{marginparwidth} + \cs{marginparsep}$だけ
 106 増加させる．
 107
 108 \section{\texttt{lines}オプションに関する注意事項}
 109 本節の内容は，\textsf{lltjp-geometry}パッケージを読み込まない場合，
 110 つまり，横組クラスで\textsf{geometry}パッケージを普通に使用した場合にも
 111 当てはまる注意事項である．
 112
 113 \subsection{\textsf{fontspec}パッケージとの干渉}
 114 \pTeX 系列では，次のように\textsf{fontenc}パッケージ読み込み直後に
 115 \textsf{geometry}パッケージを用いてレイアウトを設定すると，
 116 \texttt{lines} による指定が正しく働かないという症状が生じる：
 117 \begin{lstlisting}
 118 \documentclass{article}
 119 \usepackage{geometry}
 120 \usepackage{fontspec}
 121 \geometry{lines=20}
 122 \begin{document}
 123 hoge\typeout{\the\topskip, \the\baselineskip, \the\textheight}
 124 \end{document}
 125 \end{lstlisting}
 126 \cs{typeout} で \cs{topskip}, \cs{baselineskip}, \cs{textheight} の値を調べると
 127 \[
 128  \frac{\cs{textheight} - \cs{topskip}}{\cs{baselineskip}} = 15.8\dot 3
 129 \]
 130 となることがわかるから，1ページには16行分入らないことがわかる．
 131
 132 これは，\textsf{fontspec} の読み込みによって \cs{baselineskip} がなぜか
 133 10\,ptに変えられてしまい，\cs{geometry} 命令はその値に従って本文領域の高さを計算するためで
 134 ある．とりあえずの対策は，
 135 \cs{normalsize} によって \cs{baselineskip} を正しい値に再設定し，その後
 136 レイアウトを設定すれば良い：
 137 \begin{lstlisting}
 138 \usepackage{geometry}
 139 \usepackage{fontspec}
 140 \normalsize\geometry{lines=20}
 141 \end{lstlisting}
 142
 143 なお，同様の症状は\textsf{newtxtext}パッケージなどでも発生するようなので，
 144 \pTeX 系列といえども無縁ではない．
 145
 146
 147 \subsection{\cs{maxdepth} の調整}
 148 \LaTeX では，
 149 最後の行の深さ\rensuji{$d$}と
 150 本文領域の上端から最後の行のベースラインまでの距離\rensuji{$f$}に対し，
 151 \[
 152  \cs{textheight} = f+\max(0, d-\cs{maxdepth})
 153 \]
 154 が成り立つ．
 155
 156 \pTeX 系列の標準縦組クラス\textsf{[u]tarticle}等，
 157 及びそれを\LuaTeX-ja用に移植した\textsf{ltjtarticle}等では，
 158  \cs{topskip} は\emph{横組時における}全角空白の高さ7.77588\,pt\footnote{%
 159   標準の\texttt{10pt}オプション指定時．以下同じ．
 160   ところで，この量は公称フォントサイズの10\,ptか，もしくは
 161   全角空白の高さと深さを合わせた値の9.16446\,ptの間違いではないか，と筆者は考えている．
 162   なお，奥村晴彦氏の\href{https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/jsclasses/}%
 163   {p\LaTeXe 新ドキュメントクラス}では公称ポイントサイズ10\,ptに設定されている．
 164 }であり，\cs{maxdepth} はその半分の値（従って3.88794\,pt）である．
 165
 166 いくつかのフォントについて，その中の文字の深さの最大値を見てみると
 167 表\ref{tab:baseline}のようになっている．
 168 \begin{table}[tb]
 169  \layoutfloat[c]{%
 170  \begin{tabular}<y>{ll}
 171   \toprule
 172   \bfseries フォント(10\,pt)&\bfseries 深さ（pt単位）\\
 173   \midrule
 174   横組用の標準和文フォント(\pTeX)&1.38855\\
 175   縦組用の標準和文フォント(\pTeX)&4.58221\\
 176   \midrule
 177   Computer Modern Roman 10\,pt&2.5\\
 178   Computer Modern Sans Serif 10\,pt&2.5\\
 179   Times Roman (\texttt{ptmr8t})&2.16492\\
 180   Helvetica Bold Oblique (\texttt{phvbo8t})&2.22491\\
 181   Palatino (\texttt{pplr8t})&2.75989\\
 182   \bottomrule
 183  \end{tabular}}
 184  \pcaption{いくつかのフォント中の，文字の深さの最大値
 185     \label{tab:baseline}}
 186 \end{table}
 187 欧文フォントのベースラインは，そのままでは和文との組み合わせが悪いので，
 188 さらに$\textsf{tbaselineshift}=3.41666\,\textrm{pt}$だけ下がることを考えると，
 189 最後の行に和文文字が来た場合はほぼ確実に深さが \cs{maxdepth} を超えてしまうことになる．
 190 従って，本文領域を「\rensuji{$n$}行分」として指定するときによく使われる
 191 \begin{equation}
 192    \cs{textheight} = \cs{topskip} + (n-1)\cs{baselineskip}
 193  \label{eq:nline}
 194 \end{equation}
 195 は\textsf{tarticle}クラスのデフォルトでは通用しない．
 196
 197 通常の地の文のみの文章においてほぼ確実に\eqref{eq:nline}が成り立つようにするため，
 198 \textsf{lltjp-geometry}では\emph{\texttt{lines}オプション指定時のみ} \cs{maxdepth} の値が
 199 最低でも
 200 \begin{quote}
 201 公称ポイントサイズの半分に，欧文ベースラインのシフト量を加えた値%
 202 \footnote{\textsf{tarticle}の場合だと，
 203 $5\,\textrm{pt} + 3.41666\,\textrm{pt}=8.41666\,\textrm{pt}$である．}
 204 \end{quote}
 205 になるようにしている．\texttt{lines} オプション非指定時にはこのような調整は
 206 行われない．
 207
 208
 209 \subsection{見かけ上の基本版面の位置}
 210 \LaTeX では，
 211 本文の一行目のベースラインは，本文領域の「上端」から
 212  \ \cs{topskip}\ だけ「下がった」ところに来ることになっている．
 213 あまり \cs{topskip} が小さいと，ユーザが大きい文字サイズを指定した時に1行目のベースライン
 214 位置が狂う危険があるため，
 215 \textsf{geometry}パッケージでは
 216 \begin{quote}
 217  \texttt{lines} オプション指定時，\cs{topskip} の値を最低でも
 218  \cs{strutbox} の高さ($0.7\cs{baselineskip}$)まで引き上げる
 219 \end{quote}
 220 という仕様になっている．
 221
 222 縦組の場合は，\cs{strutbox} に対応するボックスは \cs{tstrutbox} であるため，
 223 \textsf{lltjp-geometry}では
 224 \begin{quote}
 225  \texttt{lines} オプション指定時，\cs{topskip} の値を最低でも
 226  \emph{\cs{tstrutbox} の高さ($\cs{baselineskip}/2$)}まで引き上げる
 227 \end{quote}
 228 という挙動にした．見かけ上は \cs{topskip} の値制限が緩くなったが，前節で述べたように
 229 欧文フォントのベースラインは和文に合うように下にずらされるので，
 230 実用上は問題は起きないだろう．
 231
 232 前節の \cs{maxdepth} の調整も考え合わせると，\emph{\LaTeX が認識する本文領域と，
 233 実際の見た目の基本版面の位置とは異なる}ことに注意してほしい．
 234
 235 \medskip
 236 例えばA4縦を縦組で，公称フォントサイズ10\,pt，行送り18\,pt，30行左右中央
 237 というレイアウトにするため，
 238 \begin{lstlisting}
 239 \documentclass{tarticle}
 240 \usepackage{lltjp-geometry}
 241 \baselineskip=18pt
 242 \usepackage[a4paper,hcentering,lines=30]{geometry}
 243 \end{lstlisting}
 244 と指定すると，実際には以下のように設定される．
 245 \begin{itemize}
 246  \item \cs{topskip} は \cs{tstrutbox} の高さ8.5\,ptに設定される．
 247  \item 本文領域の「高さ」 \cs{textheight} は
 248 \[
 249  \cs{topskip} + (30-1)\cs{baselineskip} = 530.5\,\textrm{pt}.
 250 \]
 251  \item 従って，左余白と右余白は
 252 \[
 253  \frac{210\,\textrm{mm}-\cs{textheight}}2 = 33.50394\,\textrm{pt}.
 254 \]
 255 \end{itemize}
 256 しかし，実際にはページの最初の行のベースラインは，本文領域の右端から
 257 \ \cs{topskip} だけ左にずれたところにあり，
 258 一方ページの最終行のベースラインは本文領域の左端にある．
 259 縦組和文フォントのベースラインは文字の左右中央を通ることから，
 260 従って，\emph{見た目で言えば，右余白の方が$\cs{topskip} =8.5\,\textrm{pt}$だけ
 261 大きい}ということになってしまう\footnote{%
 262   同様に，横組で \texttt{vcentering} を指定すると，見かけでは
 263   $\cs{topskip}-\cs{Cht}+\cs{Cdp}$だけ上余白が大きいように見える．
 264 }．
 265
 266
 267 \end{document}