3 ここでは日本人にあまり馴染みが無い西洋の武器について説明します。アングバン
4 ドのはRPG慣れしていない人はともかく、RPG慣れしている人ですらイメージし
5 ずらい武器が登場します。また、誤ったRPGの資料やファンタジー小説の影響で誤
6 解されている武器もあるようなので、アングバンドに登場するすべての実在する武器
8 以下の説明文は次の書式を使用しています。まず、武器名。これはアングバンド内
9 では翻訳されている武器名もカタカナ表記にしてあります。次に全長や重量などのス
10 ペック。これは実際に著者が計ったのでは無く、参考文献を引用しています。そして
11 その武器に形状の特徴、使用法、歴史などが記されています。
12 なお、この説明ではアングバンドのようにダンジョンで使用する事よりも、武器と
13 しての役割に重点を置いています。ですので、アングバンド内での使い方ではありま
15 また、お恥ずかしいのですが、一部の武器の資料が不足していたために情報が怪し
16 いものが極一部あります。もし、間違いを発見された方は御一報いただけると助かり
17 ます。また、読みづらい、わかりづらい点がありましたら改善いたしますので御一報
19 最後に参考文献を並べます。大きな書店で扱っているものばかりなので、西洋の武
22 Truth In Fantasy XX 武器と防具 西洋編 市川定春著 新紀元社刊
23 Truth In Fantasy VIII 武勲の刃 市川定春著 新紀元社刊
24 武器屋 Truth In Fantasy編集部編 新紀元社刊
26 ガープス・ベーシック スティーブ・ジャクソン著 角川書店刊
28 ではみなさんの冒険が実り多いものでありますように。
31 * アングバンドで名称が異なるものには、<>内にアングバンドでの名称を記載し
37 広義での“短剣”のこと。全長は20~60cm、身幅は1~3cm、重さは0.25~0.5kg。
38 12世紀から19世紀までに様々な種類のダガーが使われました。種類によって特徴は
39 大きく異なり、切るためのダガーも突き刺すためのダガーも存在しました。一般的
40 には、ダガーが武器というよりは日常の生活で使う道具であり、護身用か決闘用と
41 いう場合だけ武器として使用されました。最も一般的なダガーは全長が30cmで突き
42 刺し用のものです。ダガーは投擲する事も可能な武器ですが、投げるには大きくバ
43 ランスも悪いため、非常に短い距離しか射程が届かない上に命中させるにはかなり
46 マン・ゴーシュ (main gauche,parrying dagger)
47 全長は30~50cm、身幅は1~3cm、重さは0.3~0.5kg。防御用のダガーとして15世
48 紀末から19世紀まで私闘において使用された短剣です。通常フェンシングという剣
49 術において使われ、左手で使用されました。マン・ゴーシュ“左手”という名はそ
50 こから来ています。その際には右手ではレイピアもしくはスモール・ソードが使わ
51 れました。特徴は硬い刀身と、長くて真っ直ぐな鍔又は柄から刀身に向かって激し
52 く湾曲した鍔です。その鍔と刀身を利用して相手の攻撃を受け流したり、相手の剣
53 をからめ捕ったりするために用いられました。もちろん、相手の剣はレイピアもし
54 くはスモール・ソードでしたので、それよりも重い武器を受ける事はまず不可能で
55 す。この短剣はフランス以外ではパリーイング・ダガー“受け流し用短剣”と呼ば
56 れ、刀身が3本あるもの、刀身が櫛状のもの(特にソード・ブレイカーと呼ばれま
57 す)、カップの形をした鍔があるものなど様々な形のものがありました。
62 ショート・ソード (short sword)
63 “短い剣”。全長は70~80cm、身幅は2~5cm、重さは0.8~1.8kg。14~16世紀の
64 重装歩兵が用いた刀剣です。特徴は身幅が広い事、切っ先が鋭く尖っている事、そ
65 して名前の元になったように短い(80cm以下)事です。これはショート・ソードが
66 重装歩兵同士の白兵戦で使用され、丈夫である事、叩き斬るよりも鎧を着た相手に
67 大きな傷を負わせる事が出来る突き刺しが出来る事、人が密集している中で振り回
68 しても味方を斬らない程度の短さである事の3点が重視されたためです。片手で使
72 “長剣”。全長は80~95cm、身幅は初期のものが3~5cm、後期のものが2~3cm、
73 重さは1.5~2kg。11世紀から16世紀の騎士・騎兵達が馬上で使用した刀剣で、特徴
74 は直身である事、切っ先が鋭い事、両刃である事です。片手で使用されました。初
75 期のものは技術的に刀身を薄くする事が出来なかったので叩き斬るという使い方を
76 されましたが、後期のものは十分に薄くする事も鋭い切っ先をつける事を可能であ
79 ブロード・ソード (broad sword,heavy millitary sword,schiavona,reiterpallasch)
80 “広刃剣”。全長は70~80cm、身幅は3~4cm、重さは1.4~1.6kg。17世紀から18
81 世紀に騎兵や歩兵に使われた軍事用重剣です。特徴は直身である事、両刃である事
82 で叩き斬る事を目的としています。また、拳を護るための様々に工夫された柄があ
83 る点も特徴の1つです。中世に使われた剣に比べ別段幅広い刀身を持っている訳で
84 はありませんが、当時の主流の刀剣であったレイピアと比べればかなり幅広な刃と
85 言えるのでブロード・ソードと名付けられました。片手で使用されました。騎兵が
86 用いる場合はサーベルのような騎兵突撃には用いられず、騎兵・歩兵の入り乱れた
89 バスタード・ソード (bastard sword,hand-and-a-half sword)
90 全長は115~140cm、身幅は2~3cm、重さは2.5~3kg。13世紀から17世紀の騎士達
91 が使った大型の刀剣で、叩き斬る事と突き刺す事の両方を目的としています。片手
92 でも両手でも使える事からバスタード・ソード“片手剣にも両手剣にも類似した剣”
93 と呼ばれました。騎士たちはこの剣と盾を持って戦い、いざとなったら盾を捨てて
94 両手でバスタード・ソードを使い渾身の一撃を相手に与えるという戦法で使いまし
95 た。両手剣との差は刀身が長すぎないためにより機動性が保てる事、片手剣との差
96 は両手で持つために柄が非常に長い(30~40cm)事が挙げられるでしょう。騎士た
99 トゥー・ハンデッド・ソード (two-handed sword,zweihander) <両手用ソード>
100 “両手剣”。全長は180~200cm、身幅は4~8cm、重さは2.9~6.5kg。13世紀から
101 16世紀に歩兵によって使用された大型の刀剣です。刀身の重さを利用して叩き斬
102 る事を目的にしていますが、一応切っ先があり突き刺す事も可能です。特徴はその
103 長さと重さ、直身である事、両手で使用するために柄が非常に長い(30~50cm)事
104 です。あまりに長く重いため使いこなすにはかなりの熟練が必要でした。この剣を
105 使用する兵士達はあまりの長さに、腰に下げる事が出来ず、背負うかただ持ち歩い
108 エグゼキューショナーズ・ソード (executioner's sword) <首切りソード>
109 “死刑執行人の剣”。全長は100cm~、身幅は6~7cm、重さは2.2~2.5kg。17世
110 紀から18世紀の死刑執行人たちによって使われた処刑用の両手剣です。特徴はその
111 使用目的に則したものです。この剣はたった一度で首を落とす事が目的です。その
112 ため身幅は非常に広く、切っ先は無くて先端は丸まっています。また、力を込めて
113 振り下ろしやすいように両手剣よりもはるかに短い柄しか持っていません。両刃で
114 あり、刀身の部分に様々な彫刻が施されている事が多いようです。
116 サーベル (sabre,saber,schweizersabel)
117 “騎兵刀”。全長は70~120cm、身幅は2~4cm、重さは1.7~2.4kg。16世紀から
118 20世紀まで騎兵部隊の主要刀剣として使われた刀剣です。特徴といっても時期と地
119 域でかなりの差があり一概には言えません。大まかに言える事は、片手で使うもの
120 であり、片刃で刀身がしなやかに湾曲している事です。と言っても刀身の形には3種
121 類があり、直刀型、半曲刀型、曲刃型に分ける事ができます。さらに切っ先にも3
122 種類があり、槍状のもの、疑似刃(カットラスを参照)状のもの、手斧状のものに
123 分かれます。このうち、直刀型・槍状が突き刺し用、曲刀型・手斧状が切り用、半
124 曲刀型・疑似刃状がその両方の兼用として作られ使用されました。なかでも、刀身
125 が半曲刀型で、切っ先が疑似刃状か手斧状のサーベルが一番多く作られました。鍔
126 や柄にも地域的な特徴があり、様々な発展を遂げています。サーベルには地域によ
127 り様々な名前が付けられ、別々の武器として扱われる事もあります。サーベルを使
128 う騎兵は騎兵突撃においてこの刀剣を使用しました。
130 レイピア (rapier,epee rapiere,dress sword,espada ropera)
131 全長は80~100cm、身幅は1~3cm、重さは0.7~0.9kg。16世紀から18世紀に使
132 われた片手用の刀剣です。特徴は真っ直ぐな刀身、鋭い切っ先、両刃である、刀
133 身が非常に薄いという事です。切る事も可能ですが、通常は突き刺して使います。
134 当時の兵士は重装備では無く、非常に軽装であり盾も持たない時代であり、フェ
135 ンシングという剣術で使われました。初期には片手に盾を持つ事もありましたが、
136 16世紀には右手にレイピア、左手にマン・ゴーシュというのが一般的な構えでした。
137 騎士たちの決闘やそれが廃れた後は貴族・紳士たちの私闘の道具として広く普及
141 全長は50~60cm、身幅は3~5cm、重さは1.2~1.4kg。18~19世紀の船乗りたち
142 が使用した刀剣。特徴は疑似刃と呼ばれる切っ先です。疑似刃とは基本的には片
143 刃で、切っ先から刀身の3分の1ぐらいまでが両刃になっている事を指します。ま
144 た、身幅が非常に広い点、わずかに湾曲している点も特徴です。ものによっては
145 拳を護るための大きな鍔があるものや、棟(刃の無い側)がノコギリ状になって
146 いるものなどがありました。叩き切る事を目的としていますが、疑似刃によって
147 突き刺す事で大きな傷を与える事も出来ます。片手で使用されました。
149 スモール・ソード (small sword,light sword,town sword,walking sword)
150 “小剣”。全長は50~70cm、刃渡り40~60cm、身幅は1~1.5cm、重さは0.51~
151 0.7kg。16世紀から18世紀に一般市民や紳士、貴族が日常所有していた刀剣です。
152 特徴は鋭く尖った切っ先と細く直身の刀身です。武器というよりも日常品で、儀
153 式用や装飾用のものも多くありました。私闘などで使う際には片手で使用し、突
154 き刺します。小型のレイピアといえるもので、レイピア同様に様々な形の柄や鍔
155 がありましたし、レイピア同様にフェンシングで使用されました。左手にマン・
156 ゴーシュを持つ事があったのもレイピア同様です。特に貴族が用いたものは宝石
157 で飾るなどとても高価で、派手に装飾された柄を持っていました。
159 シミター (scimitar,shamshir,simiterra,cimeterre)
160 “三日月刀”。全長は80~100cm、刃渡り75~90cm、身幅は2~3cm、重さは1.5
161 ~2kg。ペルシアの代表的な刀剣です。特徴は緩やかに湾曲した刀身と、刀身と
162 逆方向に湾曲している柄、片刃である事です。片手で扱い、振り下ろして叩き斬
163 るように作られています。また、柄の「ライオンの頭」と呼ばれる柄頭がこの刀
164 の特徴でもあります。サーベルの起源となった刀で、ペルシア語ではシャムシー
165 ル“ライオンの尻尾”と呼ばれました。シミターにはフランボワヤン様式(刀身
166 が波うっている形状)の刀身を持つものもありました。
169 全長は70~100cm、身幅は約2cm、重さは1.4~1.8kg。16世紀のインドで誕生し
170 たサーベルの一種で、16~17世紀のインド・ムガール帝国・トルコ・ペルシア・
171 モンゴルなどの騎兵に使用されました。特徴は片刃の湾刀である事、十字型の鍔
172 を持ちナックル・ガードがある事です。刀身の湾曲は初期のものは極端なのです
176 西洋の刀剣類は東洋の刀剣類とまったく違った概念によって作られ、使われて
177 来ました。つまり、切るのでは無く、叩き斬るという事です。西洋の刀剣類の刃
178 はたしかに刃としての性能はもってはいますが、たとえば日本刀などに比べると
179 切れ味がかなり悪いと言えます。西洋の戦士たちは東洋の剣士たちの様に刀剣類
180 をただ振り下ろすのでは無く、全体重をかけて力で叩き斬ろうとするのです。刃
181 はあくまでその時に力のかかる面積を狭くして与える打撃を大きくしようとする
183 さらに西洋と東洋の剣術には大きな差があります。鎧と盾の存在です。西洋の
184 場合は防御のほとんどを重い鎧と大きな盾に依存しています。武器は相手を攻撃
185 するためのもので、相手の攻撃を武器で防いだり、受け流したりしたのは17世紀
186 になって鎧や盾が廃れてからの事です。フェンシングと呼ばれる剣術がこれで、
187 それ以前に刀剣類で相手の攻撃を受けたりする事はまずありませんでした。
191 ビークド・アックス (beaked axe)
192 “髭斧”。全長は約20cm。小型の片刃の斧で、8~11世紀のヴァイキングによっ
193 て使用された海戦用の武器です。叩き斬る事を目的としており、片手で使用され
194 ました。特徴は斧頭の形状で、その下側が四角く突起していました。この突起は
195 船縁に引っかけるためのものでした。また、長い柄ももっており、この柄と突起
196 は船から船に乗り移る時に便利なものでした。
198 バトル・アックス (battle axe)
199 “戦斧”。全長80~120cm、重さは1~1.6kg。新石器時代から19世紀初頭の東欧
200 まで広く用いられた叩き斬る事を目的とした武器。長い柄の先に片刃の手斧状の
201 刃がついている事以外がメイス同様一概に特徴を述べる事はできません。歩兵の
204 ブロード・アックス (broad axe)
205 “幅広斧”。全長は1.5~2m、斧頭の長さは30~45cm。8~11世紀のヴァイキン
206 グによって使用された両手用の片刃の斧。特徴はその名の通り、非常に重く幅広
207 の斧頭で、叩き斬る事を目的にしています。当時の主な鎧であるチェイン・メイ
210 グレート・アックス (great axe)
211 “大斧”。重さは約4kg。両刃の斧で、両手で使用されました。その名の通り非
215 “鎚矛”。全長30~100cm、重さは2~3kg。紀元前30世紀から17世紀まで使用さ
216 れた殴打用の武器です。メイスには非常に多くの種類があり特徴を一概に言う事
217 は出来ませんが、柄の先に複雑な頭部がある棍棒といった所です。代表的なもの
218 には先端が太くなり刺を持つもの、同じ形状の鉄板を放射状につなぎ合わせたも
219 の、星球をつけたもの(モーニング・スター参照)、たまねぎ型の頭部を持つもの
220 などがあります。中世以降は重装備である騎士に対して衝撃を与える武器として
221 多く用いられました。剣では斬れない鎧も、メイスによる衝撃は防ぐ事が出来な
222 いのです。騎士たちが使っていましたが、後には歩兵用の長い柄を持つメイスも
225 モーニング・スター (morning star,morgenstern)
226 “星球鎚”。全長50~80cm、重さは2~2.5kg。13世紀から17世紀の騎士や兵士
227 に最も好まれた武器です。メイスの一種で、特徴は頭部が星球の形をしている事
228 です。つまり、球形・円柱形・楕円形の頭部にいくつもの刺が放射状に突き出て
229 います。重い鎧を着た騎士や兵士に有効的であったため広く用いられました。
231 ウォー・ハンマー (war hammer)
232 “戦鎚”。全長50~200cm、重さは1.5~3.5kg。6世紀のスキタイの騎兵たちや
233 14世紀から16世紀の歩兵によって使用された殴打用の武器です。特徴は頭部の形
234 で片方には尖った鎚頭があり、反対側には尖っていない平らな鎚頭があります。
235 頭部の先が槍状になっているものや石突が鋭く尖っているものが多いようです。
236 歩兵用のものは2mほどの長い柄を持ち、騎士のトーナメント用が80cmほど、騎士
237 が馬上で使っていたものが50cmほどです。他の殴打用武器同様に敵の鎧を破壊し
238 たり、鎧の上から敵に衝撃を与えるために使われました。ハンマーと言うと杭を
239 打ったりする時の大きな頭部をもつものか、トンカチの大きいものをイメージし
240 がちですが、ウォー・ハンマーは衝撃点を小さくするためにピッケルに近い頭部
244 全長30~50cm、柄の長さは15~30cm、重さは1~2kg。11~12世紀の騎兵に使わ
245 れた対騎兵用の殴打武器です。特徴は短い棒(穀物)と長い棒(柄)を鎖でつな
246 いでいるという点です。柄をもって振り回し、穀物に加速をつけて打撃力を増す
247 という使い方をします。穀物の方は金属製であったり、木製であっても刺が放射
248 状に突き出ていたり、金属で補強されたりと威力を増すための工夫がなされてい
251 ボール・アンド・チェイン (ball-and-chain) <鎖つき鉄球>
252 全長50~80cm、重さは1~1,5kg。フレイルの一種で、穀物の部分が金属製の星
253 球になっており、フレイルよりも長い鎖で柄に固定されています。モーニング・
254 スターと混同されて、そう呼ばれる事もあります。使用法などはフレイルとほと
257 トゥー・ハンデッド・フレイル (two-handed flail) <両手用フレイル>
258 全長160~200cm、柄の長さは120~150cm、重さは2.5~3,5kg。13世紀から20世
259 紀初頭までの歩兵に使われた対騎兵用の殴打武器です。フレイルとの違いが柄の
260 長さです。両手で使用するために非常に長く、より大きな威力を生み出します。
261 非力な歩兵でも十分に重装備の騎士に打撃を与える事が出来るため14世紀には広
264 クォータースタッフ (quarterstaff)
265 “六尺棒”。全長は180cm、重さは約1.4kg。イギリスの農民たちが使った殴打
266 用の武器です。ただの木製の棒ですが、唯一特徴と言えるのは、両端が金属で補
267 強されているという点です。通常は片方の端だけでは無く両端を利用して使われ
268 ます。熟練したクォータースタッフの使い手は両端をうまく利用して自由自在な
269 攻撃が可能でした。ただし、この武器の弱点は材質が木である点で、鎧を着てい
270 る相手にはまったく効果がない上、鉄製の武器によって簡単に破壊されてしまう
274 “鞭”。全長は80~100cm、重さは0.5~1kg。革でできた紐状の武器です。少し
275 硬くなっている柄の部分を持って振り回す事で、先端に打撃力を与えます。叩く
276 ための武器ですが、熟練した者が使えば相手を絡める事も可能です。武器として
277 は一般的では無く、本来は牧畜などで使用されていた農具です。近代には奴隷に
284 最も起源の古い槍。全長は0.8~3m、重さは1.2~3.5kg。長さによってショート・
285 スピアーとロング・スピアーに分類され、用途も違います。特徴は木製の柄の先に
286 石製もしくは金属製の穂先がある事で突き刺し用の武器です。ショート・スピアー
287 は2m以下のスピアーで、石器時代から狩猟や戦闘で使われていました。片手用で、
288 突き刺して使う以外に短距離であれば投擲する事を可能でした。古代ヒッタイト
289 では盾とショート・スピアーを持った兵士による集団戦術が誕生しています。一方、
290 ロング・スピアーは2m以上のスピアーで、ショート・スピアの戦術が確立した後に
291 生まれた武器です。接近戦で相手より早く攻撃を当てるためにスピアーが長くなっ
292 た結果、古代シュメールで誕生しました。両手で使い、腰だめに構えて使用され
293 ました。中世にはもっと有効的な武器の登場によってスピアーの使用は廃れてし
294 まいましたが、鉾槍類の基本となり強い影響を与えています。
296 トライデント (trident,fuscina,fucinula)
297 “三叉槍”。全長は1.5~1.8m、重さは2~2.5kg。スピアーと同時期に漁猟用の
298 道具から派生した武器と言われ、古代ローマの剣闘士やガレー船の船乗り、ロー
299 マ時代以降の農民兵などに使用されました。特徴は槍状の穂先が3本ならんで柄
300 の先についている事です。一般的な使用法は右手にトライデントを持ち、左手に
301 網を持って、網で相手を捕らえて動けなくしてからトライデントで刺し殺すとい
305 全長は2.5~4.2m、重さは3.5~10kg。16世紀から19世紀末までの騎兵によって
306 使用された突撃用の槍です。また、13世紀から17世紀のトーナメントのジョスト
307 でも使用されました。ランスは大きく分けて実戦用とジョスト用、東欧で用いら
308 れたタイプの3種類があります。特徴はそのタイプごとに違いがあるのですが、
309 だいだいの所、鋭い三角錐の形をしており、大きく広がった護拳を持ち、握りの
310 部分が細く、そしてその後ろにバランスを整えるため太くなった部分があります。
311 どのタイプも片手で抱えるように固定して使用しました。槍先は実戦用は槍状、
312 ジョスト用が3つの爪を持った王冠状です。ジョスト用のランスは相手を馬上か
313 ら落とす事だけが目的なので、衝撃をより強く与えて、一方傷を負わせないよう
314 にするためにこのような槍先をしています。また、柄に縦溝があり折れやすくなっ
315 たものもありました。一方、東欧のランスはパイクの様に非常に長い柄に鋭い穂
316 先を持つ、より実戦的なものです。ちなみに7世紀から13世紀までの騎士に使用さ
317 れたランスはロング・スピアーと変わらないもので、騎乗して突撃する時に使う長
321 全長は5~7m、穂先は約25cm、重さは3.5~5kg。15世紀から17世紀末に歩兵に
322 よって使われた対騎兵用の長槍です。突き刺すための武器ですが、騎士に対する
323 威嚇として絶大な効果を持ちました。両足と両手を使って穂先が騎士の高さにな
324 るように固定して構え、突撃してくる騎兵に向けて使用します。騎兵の持つラン
325 スよりも長いリーチを持つために騎兵は突撃をためらいますし、もし突撃して来
326 た場合は相手の勢いを利用して大きな打撃を与える事が可能でした。後期にはマ
327 スケット銃を装備した部隊が弾丸を込めている間に援護する歩兵部隊によって使
331 “突き錐槍”。全長は2.5~3m、穂先は80~100cm、重さは2.5~3kg。13世紀から
332 16世紀の歩兵によって使われた対騎兵用の長槍です。特徴は極端の長く、錐のよ
333 うに細く鋭く尖っている穂先と、穂先の根本にある円形の鍔です。穂先が長く鋭
334 いのは、13世紀の騎士たちはホウバークという鎖帷子で全身を覆っていたので、
335 その鎖の隙間から騎士を刺し殺すためです。円形の鍔は穂先が必要以上に刺さり
336 すぎないため、また相手の攻撃を鍔で受けとめるためのものです。ただし、あま
337 り実用的な武器ではなく、ホウバークを着ていない敵を相手にする場合には意味
340 ルツェルン・ハンマー (lucerne hammer)
341 全長は3m、頭部は40~50cm、重さは3.5kg。15世紀から16世紀中頃の歩兵によっ
342 て使用されたウォー・ハンマーの一種です。特徴は頭部の片側にある鋭い鉤爪、そ
343 の反対側にある4本の突起、槍の様に鋭く尖った鉾先です。ルツェルン・ハンマーは
344 この頭部によって、突き刺す・引っかける・鉤爪で相手の兜を刺し貫く・突起を相
345 手の衣服に絡みつかせるという4つの機能を得ています。このことからルツェルン・
346 ハンマーはウォー・ハンマーの一種というよりもハルベルトに近い武器であると言
347 えます。ウォー・ハンマーから発展し、ハルベルトそっくりになった武器とも言え
348 ます。ルツェルンという名はスイス中部にあるルツェルン州(リュセルヌ州)で
352 いわゆる“斧槍”又は“鉾槍”。全長2~3.5m、頭部は30~50cm、重さは2.5~
353 3.5kg。13世紀から16世紀末までの歩兵に使用されました。特徴はその複雑な形状
354 の頭部にあります。片側に斧の様な形状の刃があり、その反対側に刺すための鉤
355 爪があって、頭部の先には槍の様な突き刺すための切っ先があります。この頭部に
356 よって叩き斬る・突き刺す・引っかける・鉤爪で刺すという4つの機能を得ていま
357 す。スピアーよりも威力が大きく、槍の部分で騎兵を刺し、鉤爪の部分で相手の
358 兜を破壊し、斧の部分で攻撃したり、騎兵をから引きずり降ろしたり、歩兵の足
359 を払ったりする多機能性から歩兵の主要武器となりました。16世紀末から19世紀
360 までは儀式用に装飾されたものが、近衛兵によってパレードの際に使用されまし
361 た。大抵の図版はこの時期のハルベルトを参考にしています。
363 グレイブ (glaive,fauchard,cause,kuse)
364 全長2~3.5m、刃の長さが60~70cm、重さは2~3.5kg。13世紀から17世紀末ま
365 で主に近衛兵用の武器や儀典用の武器として使われました。特徴は鉾先全体を占
366 めるファルシオンに似た形状の刃です。つまり、片刃であり、刃の部分は三日月
367 型に膨らんで弧を描いており、棟の部分は真っ直ぐであるという事です。切っ先
368 も尖っており、突き刺す事を出来ますが、振り回して叩き斬る方が効果的であり、
369 この武器の一般的な使用方です。実戦ではあまり使われず、16世紀以降は完全に
370 儀典用の武器となりました。儀典用のグレイブの鉾先には様々な模様や紋章が彫
371 刻されていました。刃の反対側に鉤爪が付けられたグレイブはどちらかというと
374 ロコッバー・アックス (lochaber axe)
375 全長2~2.5m、斧刃の長さが40~50cm、重さは2.2~2.5kg。16世紀から18世紀
376 のスコットランドの農民出身の兵士たちに使われた戦斧です。特徴は片刃で非常
377 に薄い斧刃と、先端についた鉤爪です。鉤爪は馬上の敵を引きずり降ろすのに使
378 われました。斧刃は切るためのもので、刺すための切っ先はありません。ロコッ
379 バーという名はスコットランドの一地方の名前で、そこでこの武器が誕生したた
380 めにこの名が付けられました。非常に似た武器であるジャッドバラ・アックスも
381 同様にスコットランドの都市の名を冠しています。ロコッバー・アックスは連邦
382 王国の武器であり、連邦王国以外で使用された記録はまったくありません。
385 いわゆる“大鎌”。全長2~2.5m、刃の長さが70~90cm、重さは2.2~2.5kg。
386 農具である大鎌から派生した武器で、16世紀後期から17世紀の農民兵によって使
387 用されました。特徴は湾曲した片刃の刃です。まったく戦い方を知らない小作民
388 が反乱において使用したため、腰溜めに構えてただ振り回すという使われ方が一
389 般的でした。また、接近戦では刃の部分で叩き斬ったり、全体で殴り倒したりと
390 いう使用法も広く用いられました。ちなみに、死神が持っているとされる大鎌は
391 柄と刃の間の角度が90度ありますが、実際に使われた大鎌は柄の延長上に湾曲し
397 ショート・ボウ (short bow) <短弓>
398 “短弓”。全長は1m以下、重さは0.5~0.8kg。有効射程は90m、最大射程は225m。
399 旧石器時代の末期に狩猟用に使われだした射撃武器です。古代エジプトや古代シュ
400 メールなどの軍隊で使用されました。特徴は弓本体の短さです。扱いやすい手頃な
401 長さのために馬上でも使用されました。標的に命中させるには非常な熟練を要す武
404 ロング・ボウ (short bow) <長弓>
405 “長弓”。全長は150~200cm、重さは0.6~1kg。有効射程は150m、最大射程は
406 255m。12世紀から15世紀のイギリスの弓兵に使用された射撃武器です。ショート・
407 ボウとの差はその長さで、プレート・メイルを貫通する事が可能なほどの非常に
408 大きな貫通力をもっていました。射程はショート・ボウよりも長く、さらに山なり
409 の弾道を描く事によって射程を長くする事が可能でした。しかし、この射撃方で
410 標的に命中させるには通常よりもはるかに長い期間の練習が必要でした。
412 ヘヴィ・クロスボウ (heavy crossbow) <重クロスボウ>
413 全長は縦が60~100cm、横幅が50~70cm、重さは3~10kg。有効射程は40~80m、
414 最大射程は100~425m。10世紀から15世紀に使われた射撃武器でいわゆるボウガ
415 ンです。訓練が必要なショート・ボウ、ロング・ボウに比べて、引き金を引くだけ
416 でより威力のある矢(クォーラル)をより遠くへ射出出来るという高性能から広
417 くヨーロッパに広がりました。非常に強力で同じキリスト教徒への使用を禁じら
418 れた事もあるこの武器の最大の欠点は鋼鉄製の弦を引くのに長い時間がかかって
419 しまう所でした。それを解消するためにさまざまな方法が取られましたが、革命
420 的な方法はとうとう見つかりませんでした。この事が致命的となり15世紀中頃に
421 武器としての寿命を終えます。西洋でクロスボウが最初に使われたのは紀元前4
424 ライト・クロスボウ (light crossbow) <軽クロスボウ>
425 16世紀以降、狩猟やスポーツに使用されたクロスボウの事です。より小型とな
426 り、より軽量化され、より扱いやすくなっています。また、クォーラルでは無く、
427 石や弾丸を飛ばすものも開発されました。現在でもボウガンと呼ばれ、スポーツ
431 “投石紐”。全長1m、重さは0.3kg以下。有効射程は100m、最大射程は120~180m。
432 旧石器時代より狩猟に使われた投擲武器。古代イスラエル、古代エジプト、古
433 代ギリシアからローマ帝国まで軍隊でも使用されました。形状は眼帯に似ており、
434 紐の先に弾を包む革か布の部分があり、その先にまた紐があります。使用方は、
435 一方の紐を手に巻き付け、石受けの部分に石をいれて、もう一方の紐を巻き付け
436 た手で掴んで、スリングを頭上で振り回します。石に十分な加速が得られたら手
437 を離します。すると振り回した勢いで石が飛んでいくのです。石を飛ばすだけな
438 らば簡単なのですが、命中させるとなると非常に熟練を要しました。原始的な武
439 器ですが、コストと威力の関係から十字軍時代まで軍隊で使用されていました。
440 未開地では19世紀まで使われ、探検者たちを恐れさせました。
446 いわゆるナックルです。金属で作られた拳にはめる武器で、拳による打撃力を
447 高める事を目的にしています。形状には様々なものがあり一概には言えませんが、
448 最も一般的なものはナックルとして現在を使われているものです。他にもグロー
449 ブ型のものやナックル型でも表面に突起物があるものなどがあります。古代ギリ
450 シアのボクシングの時や古代ローマの拳闘士に使用されました。正規の軍隊の装