+.SS "同期 I/O"
+POSIX.1\-2008 の「同期 I/O」の選択肢として複数種類が規定されており、 動作を制御するために \fBopen\fP() フラグとして
+\fBO_SYNC\fP, \fBO_DSYNC\fP, \fBO_RSYNC\fP が規定されている。 この選択肢を実装がサポートしているかに関わらず、
+各実装では少なくとも通常のファイルに対して \fBO_SYNC\fP が利用できなければならない。
+
+Linux は \fBO_SYNC\fP と \fBO_DSYNC\fP を実装しているが、 \fBO_RSYNC\fP は実装していない (少し間違っているのだが、
+glibc では \fBO_RSYNC\fP が \fBO_SYNC\fP と同じ値で定義されている)。
+
+\fBO_SYNC\fP は、 同期 I/O での\fIファイル\fP完全性完了を提供する。 つまり、
+書き込み操作はデータとすべての関連メタデータを裏で利用されているハードウェアにフラッシュすることを意味する。 \fBO_DSYNC\fP は、 同期 I/O
+での\fIデータ\fP完全性完了を提供する。 つまり、 書き込み操作はデータを裏で利用されているハードウェアにフラッシュするが、
+それ以降の読み出し操作が正常に完了するのに必要なメタデータの更新のみをフラッシュする。 データ完全性完了は、
+ファイル完全性完了を必要としないアプリケーションで、 ディスク操作の数を減らすことができる。
+
+2 種類の完了の違いを理解するために、 ファイルメタデータの 2 つの要素、 ファイルの最終修正時刻 (\fIst_mtime\fP)
+とファイル長、を考える。 すべての書き込み操作は最終修正時刻を更新するが、 ファイルの末尾にデータを追加する書き込み操作のみがファイル長を変更する。
+最終修正時刻は、 読み出しが正常に完了するのに必要ではないが、 ファイル長は必要である。 したがって、 \fBO_DSYNC\fP
+はファイル長のメタデータの更新がフラッシュされることだけを保証する (これに対して \fBO_SYNC\fP
+では最終修正時刻のメタデータも常にフラッシュされる)。
+
+Linux 2.6.33 より前では、 Linux は \fBopen\fP() では \fBO_SYNC\fP フラグのみを実装していた。 しかしながら、
+このフラグが指定された場合、 ほとんどのファイルシステムで提供されていたのは実際には同期 I/O での\fIデータ\fP完全性完了と等価なものであった
+(つまり、 \fBO_SYNC\fP は実際には \fBO_DSYNC\fP と等価なものとして実装されていた)。
+
+.\"
+.\"
+Linux 2.6.33 行こう では、 正しい \fBO_SYNC\fP のサポートが提供されている。 しかしながら、
+バイナリレベルの後方互換性を保証するため、 \fBO_DSYNC\fP は以前の \fBO_SYNC\fP と同じ値で定義されており、 \fBO_SYNC\fP は
+\fBO_DSYNC\fP フラグの値を含む新しい (2 ビットの) フラグ値として定義されている。 これにより、
+新しいヘッダを使ってコンパイルされたアプリケーションで、 2.6.33 より前のカーネルで少なくとも \fBO_DSYNC\fP
+の動作は同じになることが保証される。
+.SS NFS
+NFS を実現しているプロトコルには多くの不備があり、特に \fBO_SYNC\fP と \fBO_NDELAY\fP に影響する。
+
+.\"
+.\"
+UID マッピングを使用している NFS ファイルシステムでは、 \fBopen\fP() がファイルディスクリプタを返した場合でも \fBread\fP(2)
+が \fBEACCES\fP で拒否される場合がある。 これはクライアントがアクセス許可のチェックを行って \fBopen\fP()
+を実行するが、読み込みや書き込みの際には サーバーで UID マッピングが行われるためである。
+.SS ファイルアクセスモード
+「アクセスモード」の値 \fBO_RDONLY\fP, \fBO_WRONLY\fP, \fBO_RDWR\fP は、 \fIflags\fP
+に指定できる他の値と違い、個々のビットを指定するものではなく、 これらの値は \fIflags\fP の下位 2 ビットを定義する。 \fBO_RDONLY\fP,
+\fBO_WRONLY\fP, \fBO_RDWR\fP はそれぞれ 0, 1, 2 に定義されている。 言い換えると、 \fBO_RDONLY |
+O_WRONLY\fP の組み合わせは論理的に間違いであり、確かに \fBO_RDWR\fP と同じ意味ではない。
+
+.\" See for example util-linux's disk-utils/setfdprm.c
+.\" For some background on access mode 3, see
+.\" http://thread.gmane.org/gmane.linux.kernel/653123
+.\" "[RFC] correct flags to f_mode conversion in __dentry_open"
+.\" LKML, 12 Mar 2008
+.\"
+.\"
+Linux では、特別な、非標準なアクセスモードとして 3 (バイナリでは 11) が 予約されており \fIflags\fP に指定できる。
+このアクセスモードを指定すると、ファイルの読み出し/書き込み許可をチェックし、 読み出しにも書き込みにも使用できないディスクリプタを返す。
+この非標準のアクセスモードはいくつかの Linux ドライバで、デバイス固有の \fBioctl\fP(2)
+操作にのみ使用されるディスクリプタを返すために使われている。
+.SS "openat() や他のディレクトリファイルディスクリプタ API の基本原理"
+\fBopenat\fP() やディレクトリファイルディスクリプタを引き数を取る他のシステムコールやライブラリ関数 (\fBfaccessat\fP(2),
+\fBfanotify_mark\fP(2), \fBfchmodat\fP(2), \fBfchownat\fP(2), \fBfstatat\fP(2),
+\fBfutimesat\fP(2), \fBlinkat\fP(2), \fBmkdirat\fP(2), \fBmknodat\fP(2),
+\fBname_to_handle_at\fP(2), \fBreadlinkat\fP(2), \fBrenameat\fP(2), \fBsymlinkat\fP(2),
+\fBunlinkat\fP(2), \fButimensat\fP(2) \fBmkfifoat\fP(3), \fBscandirat\fP(3))
+は二つの理由から用意されている。 ここでは、 \fBopenat\fP コールに関して説明するが、この基本原理は他のインターフェースでも同じである。
+
+最初の理由として、 \fBopenat\fP() を使うと、 アプリケーションは、 カレントワーキングディレクトリ以外のディレクトリで \fBopen\fP()
+を使ってファイルをオープンする際に起こり得る競合条件を避けることができる。 これらの競合条件は、 \fBopen\fP()
+に渡されたディレクトリプレフィックスの構成要素が \fBopen\fP() の呼び出しと並行して変化する可能性があるという点に由来している。
+このような競合条件は、 対象のディレクトリに対するファイルディスクリプタをオープンし、 それから \fBopenat\fP() の \fIdirfd\fP
+引き数としてそのファイルディスクリプタを指定することで、 避けることができる。
+
+.\"
+.\"
+二つ目として、 \fBopenat\fP() を使うと、アプリケーションが管理するファイルディスクリプタにより、
+スレッド単位の「カレントワーキングディレクトリ」を実装することができる (この機能は、 \fI/proc/self/fd/dirfd\fP
+を使った方法でも実現することができるが、 効率の面で落とる)。