draft/man7/signal.7

   1 .\" t
   2 .\" Copyright (c) 1993 by Thomas Koenig (ig25@rz.uni-karlsruhe.de)
   3 .\" and Copyright (c) 2002, 2006 by Michael Kerrisk <mtk.manpages@gmail.com>
   4 .\" and Copyright (c) 2008 Linux Foundation, written by Michael Kerrisk
   5 .\"     <mtk.manpages@gmail.com>
   6 .\"
   7 .\" Permission is granted to make and distribute verbatim copies of this
   8 .\" manual provided the copyright notice and this permission notice are
   9 .\" preserved on all copies.
  10 .\"
  11 .\" Permission is granted to copy and distribute modified versions of this
  12 .\" manual under the conditions for verbatim copying, provided that the
  13 .\" entire resulting derived work is distributed under the terms of a
  14 .\" permission notice identical to this one.
  15 .\"
  16 .\" Since the Linux kernel and libraries are constantly changing, this
  17 .\" manual page may be incorrect or out-of-date.  The author(s) assume no
  18 .\" responsibility for errors or omissions, or for damages resulting from
  19 .\" the use of the information contained herein.  The author(s) may not
  20 .\" have taken the same level of care in the production of this manual,
  21 .\" which is licensed free of charge, as they might when working
  22 .\" professionally.
  23 .\"
  24 .\" Formatted or processed versions of this manual, if unaccompanied by
  25 .\" the source, must acknowledge the copyright and authors of this work.
  26 .\"
  27 .\" Modified Sat Jul 24 17:34:08 1993 by Rik Faith (faith@cs.unc.edu)
  28 .\" Modified Sun Jan  7 01:41:27 1996 by Andries Brouwer (aeb@cwi.nl)
  29 .\" Modified Sun Apr 14 12:02:29 1996 by Andries Brouwer (aeb@cwi.nl)
  30 .\" Modified Sat Nov 13 16:28:23 1999 by Andries Brouwer (aeb@cwi.nl)
  31 .\" Modified 10 Apr 2002, by Michael Kerrisk <mtk.manpages@gmail.com>
  32 .\" Modified  7 Jun 2002, by Michael Kerrisk <mtk.manpages@gmail.com>
  33 .\"     Added information on real-time signals
  34 .\" Modified 13 Jun 2002, by Michael Kerrisk <mtk.manpages@gmail.com>
  35 .\"     Noted that SIGSTKFLT is in fact unused
  36 .\" 2004-12-03, Modified mtk, added notes on RLIMIT_SIGPENDING
  37 .\" 2006-04-24, mtk, Added text on changing signal dispositions,
  38 .\"             signal mask, and pending signals.
  39 .\" 2008-07-04, mtk:
  40 .\"     Added section on system call restarting (SA_RESTART)
  41 .\"     Added section on stop/cont signals interrupting syscalls.
  42 .\" 2008-10-05, mtk: various additions
  43 .\"
  44 .\"*******************************************************************
  45 .\"
  46 .\" This file was generated with po4a. Translate the source file.
  47 .\"
  48 .\"*******************************************************************
  49 .TH SIGNAL 7 2012\-05\-01 Linux "Linux Programmer's Manual"
  50 .SH 名前
  51 signal \- シグナルの概要
  52 .SH 説明
  53 Linux は POSIX 信頼シグナル (reliable signal; 以後 "標準シグナル"と表記)  と POSIX
  54 リアルタイムシグナルの両方に対応している。
  55 .SS シグナル処理方法
  56 シグナルはそれぞれ現在の「処理方法 (disposition)」を保持しており、 この処理方法によりシグナルが配送された際にプロセスが
  57 どのような振舞いをするかが決まる。
  58
  59 後述の表の "動作" の欄のエントリは各シグナルのデフォルトの 処理方法を示しており、以下のような意味を持つ。
  60 .IP Term
  61 デフォルトの動作はプロセス終了。
  62 .IP Ign
  63 デフォルトの動作はこのシグナルの無視。
  64 .IP Core
  65 デフォルトの動作はプロセス終了とコアダンプ出力 (\fBcore\fP(5)  参照)。
  66 .IP Stop
  67 デフォルトの動作はプロセスの一時停止。
  68 .IP Cont
  69 デフォルトの動作は、プロセスが停止中の場合にその実行の再開。
  70 .PP
  71 プロセスは、 \fBsigaction\fP(2)  や \fBsignal\fP(2)  を使って、シグナルの処理方法を変更することができる
  72 (\fBsignal\fP(2)  の方がシグナルハンドラを設定する際の移植性が低い; 詳細は \fBsignal\fP(2)  を参照)。
  73 シグナルの配送時に起こる動作として プロセスが選択できるのは、次のいずれか一つである。 デフォルトの動作を実行する、シグナルを無視する、
  74 \fIシグナルハンドラ (signal handler)\fP でシグナルを捕捉する。シグナルハンドラとは、シグナル配送時に
  75 自動的に起動されるプログラマ定義の関数である。 (デフォルトでは、シグナルハンドラは通常のプロセスのスタック上で起動される。
  76 シグナルハンドラが代替スタック (alternate stack) を使用するように設定する
  77 こともできる。代替スタックを使用するように設定する方法と、どのような際に 代替スタックが役に立つかについての議論については
  78 \fBsigaltstack\fP(2)  を参照のこと。
  79
  80 シグナルの処理方法はプロセス単位の属性である。 マルチスレッドのアプリケーションでは、あるシグナルの処理方法は 全てのスレッドで同じである。
  81
  82 \fBfork\fP(2) 経由で作成された子プロセスは、親プロセスのシグナルの処理方法の コピーを継承する。
  83 \fBexecve\fP(2) の前後で、ハンドラが設定されているシグナルの処理方法はデフォルトにリセットされ、
  84 無視が設定されているシグナルの処理方法は変更されずそのままとなる。
  85 .SS シグナルの送信
  86 以下のシステムコールとライブラリ関数を使って、 呼び出し者はシグナルを送信することができる。
  87 .TP  16
  88 \fBraise\fP(3)
  89 呼び出したスレッドにシグナルを送る。
  90 .TP
  91 \fBkill\fP(2)
  92 指定されたプロセスや、指定されたプロセスグループの全メンバー、 システムの全プロセスにシグナルを送る。
  93 .TP
  94 \fBkillpg\fP(2)
  95 指定されたプロセスグループの全メンバーにシグナルを送る。
  96 .TP
  97 \fBpthread_kill\fP(3)
  98 呼び出し者と同じプロセス内の指定された POSIX スレッドにシグナルを送る。
  99 .TP
 100 \fBtgkill\fP(2)
 101 指定されたプロセス内の指定されたスレッドにシグナルを送る (このシステムコールを使って \fBpthread_kill\fP(3)  は実装されている)。
 102 .TP
 103 \fBsigqueue\fP(3)
 104 指定されたプロセスに付属データとともにリアルタイムシグナルを送る。
 105 .SS シグナルが捕捉されるのを待つ
 106 以下のシステムコールを使って、シグナルが捕捉されるまで 呼び出したプロセスやスレッドの実行を中断 (suspend) することができる
 107 (ハンドラが設定されていないシグナルによりそのプロセスが終了した 場合にも実行の停止は終了する)。
 108 .TP  16
 109 \fBpause\fP(2)
 110 何かシグナルが捕捉されるまで実行を停止する。
 111 .TP
 112 \fBsigsuspend\fP(2)
 113 一時的にシグナルマスク (下記参照) を変更し、 マスクされていないシグナルのいずれかが捕捉されるまで 実行を中断する。
 114 .SS シグナルの同期受信
 115 シグナルハンドラ経由でシグナルを非同期 (asynchronously) で捕捉する以外にも、 シグナルを同期 (synchronously)
 116 して受け付けることもできる。 同期して受け付けるとは、シグナルが配送されるまで実行を停止 (block)
 117 するということである。シグナルを受け付けた際に、カーネルは そのシグナルに関する情報を呼び出し者に返す。 これを行う一般的な方法が二つある。
 118 .IP * 2
 119 \fBsigwaitinfo\fP(2), \fBsigtimedwait\fP(2), \fBsigwait\fP(3)
 120 は、指定されたシグナル集合のシグナルの一つが配送されるまで実行を中断する。 どのシステムコールや関数でも、配送されたシグナルに関する情報が返される。
 121 .IP *
 122 \fBsignalfd\fP(2)  が返すファイルディスクリプタを使うと、呼び出し元に配送された シグナルに関する情報を読み出すことができる。
 123 このファイルディスクリプタからの \fBread\fP(2)  は、 \fBsignalfd\fP(2)
 124 の呼び出し時に指定されたシグナル集合のシグナルの一つが呼び出し元に 配送されるまで停止 (block) する。 \fBread\fP(2)
 125 が返すバッファにはシグナルに関する情報を格納した構造体が入っている。
 126 .SS シグナルマスクと処理待ちシグナル
 127 シグナルは \fIブロック (block)\fP されることがある。ブロックされると、そのシグナルは その後ブロックを解除されるまで配送されなくなる。
 128 シグナルが生成されてから配送されるまでの間、そのシグナルは \fI処理待ち (pending)\fP であると呼ばれる。
 129
 130 プロセス内の各スレッドは、それぞれ独立な \fIシグナルマスク (signal mask)\fP を持つ。シグナルマスクはそのスレッドが現在ブロックしている
 131 シグナル集合を示すものである。 スレッドは、 \fBpthread_sigmask\fP(3)  を使って自分のシグナルマスクを操作できる。
 132 伝統的なシングルスレッドのアプリケーションでは、 \fBsigprocmask\fP(2)  を使って、シグナルマスクを操作できる。
 133
 134 \fBfork\fP(2)  経由で作成された子プロセスは親プロセスのシグナルマスクのコピーを継承する。 \fBexecve\fP(2)
 135 の前後でシグナルマスクは保持される。
 136
 137 生成されるシグナル (したがって処理待ちとなるシグナル) には、 プロセス全体宛てと特定のスレッド宛てがある。 例えば、プロセス全体宛てのシグナルは
 138 \fBkill\fP(2)  を使って送信される。 特定のマシン語の命令の実行の結果として生成される、 \fBSIGSEGV\fP や \fBSIGFPE\fP
 139 などのシグナルは、スレッド宛てとなる。 また、 \fBpthread_kill\fP(3)  を使って特定のスレッド宛てに生成されたシグナルも
 140 スレッド宛てとなる。 プロセス宛てのシグナルは、そのシグナルをブロックしていないスレッドのうち
 141 いずれかの一つに配送することができる。そのシグナルをブロックしていない スレッドが複数ある場合、シグナルを配送するスレッドはカーネルが
 142 無作為に選択する。
 143
 144 スレッドは、 \fBsigpending\fP(2)  を使って、現在処理待ちのシグナル集合を取得することができる。
 145 この集合は、プロセス宛ての処理待ちシグナルと 呼び出したスレッド宛てのシグナルの両方から構成される。
 146
 147 \fBfork\fP(2)  経由で作成された子プロセスでは、処理待ちのシグナル集合は空の集合で初期化される。 \fBexecve\fP(2)
 148 の前後で、処理待ちのシグナル集合は保持される。
 149 .SS 標準シグナル
 150 Linux は以下に示す標準シグナルに対応している。シグナル番号の一部はアー
 151 キテクチャ依存であり、"値" 欄に示す通りである。 (3つの値が書かれている
 152 ものは、 1つ目が alpha と sparc で通常有効な値、 真ん中が x86, arm や
 153 他のほとんどのアーキテクチャでの有効な値、最後が mips での値である。
 154 (parisc での値は記載されて\fIいない\fP。 parisc でのシグナル番号は
 155 カーネルソースを参照してほしい)。 \- はそのアーキテ
 156 クチャにおいて対応するシグナルがないことを示す。)
 157
 158 最初に、POSIX.1\-1990 に定義されているシグナルを示す。
 159 .TS
 160 l c c l
 161 ____
 162 lB c c l.
 163 シグナル    値     動作  コメント
 164 SIGHUP  \01     Term    制御端末(controlling terminal)のハングアップ検出、
 165                         または制御しているプロセスの死
 166 SIGINT  \02     Term    キーボードからの割り込み (Interrupt)
 167 SIGQUIT \03     Core    キーボードによる中止 (Quit)
 168 SIGILL  \04     Core    不正な命令
 169 SIGABRT \06     Core    \fBabort\fP(3) からの中断 (Abort) シグナル
 170 SIGFPE  \08     Core    浮動小数点例外
 171 SIGKILL \09     Term    Kill シグナル
 172 SIGSEGV 11      Core    不正なメモリ参照
 173 SIGPIPE 13      Term    パイプ破壊:
 174                         読み手の無いパイプへの書き出し
 175 SIGALRM 14      Term    \fBalarm\fP(2) からのタイマーシグナル
 176 SIGTERM 15      Term    終了 (termination) シグナル
 177 SIGUSR1 30,10,16        Term    ユーザ定義シグナル 1
 178 SIGUSR2 31,12,17        Term    ユーザ定義シグナル 2
 179 SIGCHLD 20,17,18        Ign     子プロセスの一時停止 (stop) または終了
 180 SIGCONT 19,18,25        Cont    一時停止 (stop) からの再開
 181 SIGSTOP 17,19,23        Stop    プロセスの一時停止 (stop)
 182 SIGTSTP 18,20,24        Stop    端末 (tty) より入力された一時停止 (stop)
 183 SIGTTIN 21,21,26        Stop    バックグランドプロセスの tty 入力
 184 SIGTTOU 22,22,27        Stop    バックグランドプロセスの tty 出力
 185 .TE
 186
 187 シグナル \fBSIGKILL\fP と \fBSIGSTOP\fP はキャッチ、ブロック、無視できない。
 188
 189 次に、 POSIX.1\-1990 標準にはないが、 SUSv2 と POSIX.1\-2001 に記述されているシグナルを示す。
 190 .TS
 191 l c c l
 192 ____
 193 lB c c l.
 194 シグナル    値     動作  コメント
 195 SIGBUS  10,7,10 Core    バスエラー (不正なメモリアクセス)
 196 SIGPOLL         Term    ポーリング可能なイベント (Sys V)。
 197                         \fBSIGIO\fP と同義
 198 SIGPROF 27,27,29        Term    profiling タイマの時間切れ
 199 SIGSYS  12,31,12        Core    ルーチンへの引き数が不正 (SVr4)
 200 SIGTRAP 5       Core    トレース/ブレークポイント トラップ
 201 SIGURG  16,23,21        Ign     ソケットの緊急事態 (urgent condition) (4.2BSD)
 202 SIGVTALRM       26,26,28        Term    仮想アラームクロック (4.2BSD)
 203 SIGXCPU 24,24,30        Core    CPU時間制限超過 (4.2BSD)
 204 SIGXFSZ 25,25,31        Core    ファイルサイズ制限の超過 (4.2BSD)
 205 .TE
 206
 207 Linux 2.2 以前では、 \fBSIGSYS\fP, \fBSIGXCPU\fP, \fBSIGXFSZ\fP および SPARC と MIPS
 208 以外のアーキテクチャでの \fBSIGBUS\fP のデフォルトの振る舞いは (コアダンプ出力なしの) プロセス終了であった。 (他の UNIX システムにも
 209 \fBSIGXCPU\fP と \fBSIGXFSZ\fP のデフォルトの動作がコアダンプなしのプロセス終了のものがある。)  Linux 2.4
 210 では、POSIX.1\-2001 での要求仕様に準拠して、 これらのシグナルで、プロセスを終了させ、コアダンプを出力する ようになっている。
 211
 212 次にその他の各種シグナルを示す。
 213 .TS
 214 l c c l
 215 ____
 216 lB c c l.
 217 シグナル    値     動作  コメント
 218 SIGIOT  6       Core    IOT トラップ。\fBSIGABRT\fP と同義
 219 SIGEMT  7,\-,7  Term
 220 SIGSTKFLT       \-,16,\-        A       数値演算プロセッサにおけるスタックフォルト (未使用)
 221 SIGIO   23,29,22        Term    入出力が可能になった (4.2BSD)
 222 SIGCLD  \-,\-,18        Ign     \fBSIGCHLD\fP と同義
 223 SIGPWR  29,30,19        Term    電源喪失 (Power failure) (System V)
 224 SIGINFO 29,\-,\-                \fBSIGPWR\fP と同義
 225 SIGLOST \-,\-,\-        Term    ファイルロックが失われた (未使用)
 226 SIGWINCH        28,28,20        Ign     ウィンドウ リサイズ シグナル (4.3BSD, Sun)
 227 SIGUNUSED       \-,31,\-        Core    \fBSIGSYS\fP と同義
 228 .TE
 229
 230 (シグナル 29 は alpha では \fBSIGINFO\fP / \fBSIGPWR\fP だが、sparc では \fBSIGLOST\fP である。)
 231
 232 \fBSIGEMT\fP は POSIX.1\-2001 に規定されていないが、 その他の多くの UNIX システムに存在する。
 233 デフォルトの動作は多くの場合、コアダンプ出力を伴うプロセスの終了である。
 234
 235 \fBSIGPWR\fP は (POSIX.1\-2001 に規定されていないが) このシグナルが存在する 他の UNIX
 236 システムでは多くの場合、デフォルト動作は無視である。
 237
 238 \fBSIGIO\fP は (POSIX.1\-2001 に規定されていないが) いくつかの他の UNIX システムでは デフォルト動作は無視である。
 239
 240 .\" parisc is the only exception: SIGSYS is 12, SIGUNUSED is 31
 241 \fBSIGUNUSED\fP が定義されている場合には、ほとんどのアーキテクチャで \fBSIGSYS\fP の同義語となっている。
 242 .SS リアルタイムシグナル
 243 Linux はリアルタイムシグナルをサポートしている。 リアルタイムシグナルは元々 POSIX.1b のリアルタイム拡張で定義されて
 244 いるものであり、現在では POSIX.1\-2001 に含まれている。 対応しているリアルタイムシグナルの範囲は、マクロ \fBSIGRTMIN\fP と
 245 \fBSIGRTMAX\fP で定義される。 POSIX.1\-2001 では、少なくとも \fB_POSIX_RTSIG_MAX\fP (8)
 246 個のリアルタイムシグナルに対応した実装が要求されている。
 247 .PP
 248 Linux は、32 個の異なるリアルタイムシグナルに対応しており、 その番号は 33 から 64 である。 しかしながら、glibc の POSIX
 249 スレッド実装は、 内部で 2個 (NPTL の場合) か 3個 (LinuxThreads の場合) の リアルタイムシグナルを使用しており
 250 (\fBpthreads\fP(7)  参照)、 \fBSIGRTMIN\fP の値を適切に (34 か 35 に) 調整する。
 251 利用可能なリアルタイムシグナルの範囲は glibc のスレッド実装により 異なるし (使用するカーネルと glibc により実行時にも変化する)、
 252 UNIX システムの種類によっても異なる。したがって、 プログラムでは「ハードコーディングした数字を使ってのリアルタイムシグナルの
 253 参照は決してすべきではなく」、代わりに \fBSIGRTMIN\fP+n の形で参照すべきである。また、 \fBSIGRTMIN\fP+n が
 254 \fBSIGRTMAX\fP を超えていないかのチェックを (実行時に) 適切に行うべきである。
 255 .PP
 256 標準シグナルと異なり、リアルタイムシグナルには 事前に定義された意味はない。 リアルタイムシグナルの全部をアプリケーションで定義した用途に使える。
 257 .PP
 258 ハンドリングしないリアルタイムシグナルのデフォルトの動作は 受信したプロセスの終了である。
 259 .PP
 260 リアルタイムシグナルは以下の特徴がある:
 261 .IP 1. 4
 262 リアルタイムシグナルは複数の実体をキューに入れることができる。 一方、標準シグナルの場合、そのシグナルがブロックされている間に
 263 同じシグナルの複数のインスタンスが配送されても、 1 つだけがキューに入れられる。
 264 .IP 2. 4
 265 シグナルが \fBsigqueue\fP(3)  を用いて送信された場合、 付属データ (整数かポインタ) をシグナルと共に送信できる。 受信側プロセスが
 266 \fBsigaction\fP(2)  に \fBSA_SIGINFO\fP フラグを指定してシグナルハンドラを設定した場合、 このデータは
 267 \fIsiginfo_t\fP 構造体の \fIsi_value\fP フィールド経由でハンドラの第 2 引き数として渡され、 利用することができる。
 268 さらに、この構造体の \fIsi_pid\fP と \fIsi_uid\fP フィールドでシグナルを送信したプロセスの PID と実ユーザ ID を
 269 得ることができる。
 270 .IP 3. 4
 271 リアルタイムシグナルでは配送される順序が保証される。 同じタイプのリアルタイムシグナルは送信された順番に到着する。
 272 異なるリアルタイムシグナルが一つのプロセスに送信された場合、 番号の小さいシグナルから先に到着する。
 273 (つまり小さい番号のシグナルが高い優先順位を持つ。)  対照的に、一つのプロセスに対して複数の標準シグナルが処理待ちとなった場合、
 274 これらのシグナルが配送される順序は不定である。
 275 .PP
 276 一つのプロセスに対して標準シグナルとリアルタイムシグナルの両方が 処理待ちの場合、POSIX はどちらが先に配送されるかを規定していない。 Linux
 277 では、他の多くの実装と同様、このような場合には 標準シグナルが優先される。
 278 .PP
 279 POSIX によれば、1 プロセス毎に最低 \fB_POSIX_SIGQUEUE_MAX\fP (32)
 280 個のリアルタイムシグナルをキューに入れられるべきとしている。 しかし、 Linux では違った実装になっている。カーネル 2.6.7 までは
 281 (2.6.7 を含む)、全プロセスでキューに入っているリアルタイムシグナル の数の合計についてシステム全体での制限がある。 この制限は
 282 \fI/proc/sys/kernel/rtsig\-max\fP ファイルで見ることができ、 (権限があれば) 変更もできる。 関係するファイルとして、
 283 \fI/proc/sys/kernel/rtsig\-nr\fP を見ることで、いくつのリアルタイムシグナルが現在キューに入っているかを 知ることができる。
 284 Linux 2.6.8 で、これらの \fI/proc\fP 経由のインターフェースは、 \fBRLIMIT_SIGPENDING\fP
 285 リソース制限に置き換えられた。 これは、キューに入るシグナル数に関してユーザ単位に 上限を指定するものである。 詳しくは \fBsetrlimit\fP(2)
 286 を参照。
 287 .SS "非同期シグナルで安全な関数 (async\-signal\-safe functions)"
 288 .PP
 289 シグナルハンドラ関数には非常に注意しなければならない。 他の場所の処理はプログラム実行の任意の箇所で中断される可能性があるためである。 POSIX
 290 には「安全な関数 (safe function)」という概念がある。 シグナルが安全でない関数の実行を中断し、かつ \fIhandler\fP
 291 が安全でない関数を呼び出した場合、プログラムの挙動は未定義である。
 292
 293 POSIX.1\-2004 (POSIX.1\-2001 Technical Corrigendum (正誤表) 2 とも言う) では、
 294 シグナルハンドラ内での安全な呼び出しを保証することが必須の関数として 以下が規定されている。
 295
 296 .in +4
 297 .nf
 298 _Exit()
 299 _exit()
 300 abort()
 301 accept()
 302 access()
 303 aio_error()
 304 aio_return()
 305 aio_suspend()
 306 alarm()
 307 bind()
 308 cfgetispeed()
 309 cfgetospeed()
 310 cfsetispeed()
 311 cfsetospeed()
 312 chdir()
 313 chmod()
 314 chown()
 315 clock_gettime()
 316 close()
 317 connect()
 318 creat()
 319 dup()
 320 dup2()
 321 execle()
 322 execve()
 323 fchmod()
 324 fchown()
 325 fcntl()
 326 fdatasync()
 327 fork()
 328 fpathconf()
 329 fstat()
 330 fsync()
 331 ftruncate()
 332 getegid()
 333 geteuid()
 334 getgid()
 335 getgroups()
 336 getpeername()
 337 getpgrp()
 338 getpid()
 339 getppid()
 340 getsockname()
 341 getsockopt()
 342 getuid()
 343 kill()
 344 link()
 345 listen()
 346 lseek()
 347 lstat()
 348 mkdir()
 349 mkfifo()
 350 open()
 351 pathconf()
 352 pause()
 353 pipe()
 354 poll()
 355 posix_trace_event()
 356 pselect()
 357 raise()
 358 read()
 359 readlink()
 360 recv()
 361 recvfrom()
 362 recvmsg()
 363 rename()
 364 rmdir()
 365 select()
 366 sem_post()
 367 send()
 368 sendmsg()
 369 sendto()
 370 setgid()
 371 setpgid()
 372 setsid()
 373 setsockopt()
 374 setuid()
 375 shutdown()
 376 sigaction()
 377 sigaddset()
 378 sigdelset()
 379 sigemptyset()
 380 sigfillset()
 381 sigismember()
 382 signal()
 383 sigpause()
 384 sigpending()
 385 sigprocmask()
 386 sigqueue()
 387 sigset()
 388 sigsuspend()
 389 sleep()
 390 sockatmark()
 391 socket()
 392 socketpair()
 393 stat()
 394 symlink()
 395 sysconf()
 396 tcdrain()
 397 tcflow()
 398 tcflush()
 399 tcgetattr()
 400 tcgetpgrp()
 401 tcsendbreak()
 402 tcsetattr()
 403 tcsetpgrp()
 404 time()
 405 timer_getoverrun()
 406 timer_gettime()
 407 timer_settime()
 408 times()
 409 umask()
 410 uname()
 411 unlink()
 412 utime()
 413 wait()
 414 waitpid()
 415 write()
 416 .fi
 417 .in
 418 .PP
 419 POSIX.1\-2008 では、上記のリストのうち fpathconf(), pathconf(), sysconf()
 420 が削除され、以下の関数が追加された。
 421 .PP
 422 .in +4n
 423 .nf
 424 execl()
 425 execv()
 426 faccessat()
 427 fchmodat()
 428 fchownat()
 429 fexecve()
 430 fstatat()
 431 futimens()
 432 linkat()
 433 mkdirat()
 434 mkfifoat()
 435 mknod()
 436 mknodat()
 437 openat()
 438 readlinkat()
 439 renameat()
 440 symlinkat()
 441 unlinkat()
 442 utimensat()
 443 utimes()
 444 .fi
 445 .in
 446 .SS シグナルハンドラによるシステムコールやライブラリ関数への割り込み
 447 システムコールやライブラリが停止 (block) している間にシグナルハンドラが 起動されると、以下のどちらかとなる。
 448 .IP * 2
 449 シグナルが返った後、呼び出しは自動的に再スタートされる。
 450 .IP *
 451 呼び出しはエラー \fBEINTR\fP で失敗する。
 452 .PP
 453 これらの二つの挙動のうちどちらが起こるかは、インターフェイスにより依存し、 シグナルハンドラが \fBSA_RESTART\fP フラグ
 454 (\fBsigaction\fP(2)  参照) を使って設定されていたかにも依存する。 詳細は UNIX システムによって異なる。 Linux
 455 における詳細を以下で説明する。
 456
 457 .\" The following system calls use ERESTARTSYS,
 458 .\" so that they are restartable
 459 以下のインターフェイスのいずれかの呼び出しが停止している間に シグナルハンドラにより割り込まれた場合、 \fBSA_RESTART\fP
 460 フラグが使用されていれば、シグナルハンドラが返った後に その呼び出しは自動的に再スタートされることになる。 それ以外の場合は、その呼び出しはエラー
 461 \fBEINTR\fP で失敗することになる。
 462 .RS 4
 463 .IP * 2
 464 \fBread\fP(2), \fBreadv\fP(2), \fBwrite\fP(2), \fBwritev\fP(2), \fBioctl\fP(2)  の「遅い
 465 (slow)」デバイスに対する呼び出し。 ここでいう「遅い」デバイスとは、I/O 呼び出しが無期限に停止 (block) する
 466 可能性のあるデバイスのことで、例としては端末、パイプ、ソケットがある (この定義では、ディスクは遅いデバイスではない)。 遅いデバイスに対する I/O
 467 呼び出しが、 シグナルハンドラにより割り込まれた時点までに何らかのデータを すでに転送していれば、呼び出しは成功ステータス
 468 (通常は、転送されたバイト数) を返すことだろう。
 469 .IP *
 470 停止 (block) する可能性のある \fBopen\fP(2)  (例えば、FIFO のオープン時; \fBfifo\fP(7)  参照)。
 471 .IP *
 472 \fBwait\fP(2), \fBwait3\fP(2), \fBwait4\fP(2), \fBwaitid\fP(2), \fBwaitpid\fP(2).
 473 .IP *
 474 .\" If a timeout (setsockopt()) is in effect on the socket, then these
 475 .\" system calls switch to using EINTR.  Consequently, they and are not
 476 .\" automatically restarted, and they show the stop/cont behavior
 477 .\" described below.  (Verified from 2.6.26 source, and by experiment; mtk)
 478 ソケットインターフェイス: \fBaccept\fP(2), \fBconnect\fP(2), \fBrecv\fP(2), \fBrecvfrom\fP(2),
 479 \fBrecvmsg\fP(2), \fBsend\fP(2), \fBsendto\fP(2), \fBsendmsg\fP(2).
 480 但し、ソケットにタイムアウトが設定されていない場合 (下記参照)。
 481 .IP *
 482 ファイルロック用インターフェイス: \fBflock\fP(2), \fBfcntl\fP(2)  \fBF_SETLKW\fP.
 483 .IP *
 484 POSIX メッセージキューインターフェイス: \fBmq_receive\fP(3), \fBmq_timedreceive\fP(3),
 485 \fBmq_send\fP(3), \fBmq_timedsend\fP(3).
 486 .IP *
 487 \fBfutex\fP(2)  \fBFUTEX_WAIT\fP (Linux 2.6.22 以降; それ以前は常に \fBEINTR\fP で失敗していた)。
 488 .IP *
 489 POSIX セマフォインターフェイス: \fBsem_wait\fP(3), \fBsem_timedwait\fP(3)  (Linux 2.6.22 以降;
 490 それ以前は常に \fBEINTR\fP で失敗していた)。
 491 .RE
 492 .PP
 493 .\" These are the system calls that give EINTR or ERESTARTNOHAND
 494 .\" on interruption by a signal handler.
 495 以下のインターフェイスは、 \fBSA_RESTART\fP を使っているどうかに関わらず、シグナルハンドラにより割り込まれた後、
 496 再スタートすることは決してない。 これらは、シグナルハンドラにより割り込まれると、常にエラー \fBEINTR\fP で失敗する。
 497 .RS 4
 498 .IP * 2
 499 \fBsetsockopt\fP(2)  を使ってタイムアウトが設定されているソケットインターフェース: \fBaccept\fP(2), \fBrecv\fP(2),
 500 \fBrecvfrom\fP(2), \fBrecvmsg\fP(2)  で受信タイムアウト (\fBSO_RCVTIMEO\fP)  が設定されている場合と、
 501 \fBconnect\fP(2), \fBsend\fP(2), \fBsendto\fP(2), \fBsendmsg\fP(2)  で送信タイムアウト
 502 (\fBSO_SNDTIMEO\fP)  が設定されている場合。
 503 .IP *
 504 シグナル待ちに使われるインターフェイス: \fBpause\fP(2), \fBsigsuspend\fP(2), \fBsigtimedwait\fP(2),
 505 \fBsigwaitinfo\fP(2).
 506 .IP *
 507 ファイルディスクリプタ多重インターフェイス: \fBepoll_wait\fP(2), \fBepoll_pwait\fP(2), \fBpoll\fP(2),
 508 \fBppoll\fP(2), \fBselect\fP(2), \fBpselect\fP(2).
 509 .IP *
 510 .\" On some other systems, SA_RESTART does restart these system calls
 511 System V IPC インターフェイス: \fBmsgrcv\fP(2), \fBmsgsnd\fP(2), \fBsemop\fP(2),
 512 \fBsemtimedop\fP(2).
 513 .IP *
 514 スリープ用のインターフェイス: \fBclock_nanosleep\fP(2), \fBnanosleep\fP(2), \fBusleep\fP(3).
 515 .IP *
 516 \fBinotify\fP(7)  ファイルディスクリプタからの \fBread\fP(2).
 517 .IP *
 518 \fBio_getevents\fP(2).
 519 .RE
 520 .PP
 521 \fBsleep\fP(3)  関数も、ハンドラにより割り込まれた場合、決して再スタートされることはない。 しかし、成功となり、残っている停止時間を返す。
 522 .SS 一時停止シグナルによるシステムコールやライブラリ関数への割り込み
 523 Linux では、シグナルハンドラが設定されていない場合でも、 いくつかのブロッキング型のインターフェイスは、 プロセスが一時停止 (stop)
 524 シグナルの一つにより停止され、 \fBSIGCONT\fP により再開された後に、エラー \fBEINTR\fP で失敗する可能性がある。 この挙動は
 525 POSIX.1 で認められておらず、他のシステムでは起こらない。
 526
 527 この挙動を示す Linux のインターフェイスは以下の通りである。
 528 .RS 4
 529 .IP * 2
 530 \fBsetsockopt\fP(2)  を使ってタイムアウトが設定されているソケットインターフェース: \fBaccept\fP(2), \fBrecv\fP(2),
 531 \fBrecvfrom\fP(2), \fBrecvmsg\fP(2)  で受信タイムアウト (\fBSO_RCVTIMEO\fP)  が設定されている場合と、
 532 \fBconnect\fP(2), \fBsend\fP(2), \fBsendto\fP(2), \fBsendmsg\fP(2)  で送信タイムアウト
 533 (\fBSO_SNDTIMEO\fP)  が設定されている場合。
 534 .IP * 2
 535 \fBepoll_wait\fP(2), \fBepoll_pwait\fP(2).
 536 .IP *
 537 \fBsemop\fP(2), \fBsemtimedop\fP(2).
 538 .IP *
 539 \fBsigtimedwait\fP(2), \fBsigwaitinfo\fP(2).
 540 .IP *
 541 \fBinotify\fP(7)  ファイルディスクリプタからの \fBread\fP(2).
 542 .IP *
 543 Linux 2.6.21 以前: \fBfutex\fP(2)  \fBFUTEX_WAIT\fP, \fBsem_timedwait\fP(3),
 544 \fBsem_wait\fP(3).
 545 .IP *
 546 Linux 2.6.8 以前: \fBmsgrcv\fP(2), \fBmsgsnd\fP(2).
 547 .IP *
 548 Linux 2.4 以前: \fBnanosleep\fP(2).
 549 .RE
 550 .SH 準拠
 551 .\" It must be a *very* long time since this was true:
 552 .\" .SH BUGS
 553 .\" .B SIGIO
 554 .\" and
 555 .\" .B SIGLOST
 556 .\" have the same value.
 557 .\" The latter is commented out in the kernel source, but
 558 .\" the build process of some software still thinks that
 559 .\" signal 29 is
 560 .\" .BR SIGLOST .
 561 POSIX.1 (注記した内容以外)。
 562 .SH 関連項目
 563 \fBkill\fP(1), \fBgetrlimit\fP(2), \fBkill\fP(2), \fBkillpg\fP(2),
 564 \fBrt_sigqueueinfo\fP(2), \fBsetitimer\fP(2), \fBsetrlimit\fP(2), \fBsgetmask\fP(2),
 565 \fBsigaction\fP(2), \fBsigaltstack\fP(2), \fBsignal\fP(2), \fBsignalfd\fP(2),
 566 \fBsigpending\fP(2), \fBsigprocmask\fP(2), \fBsigsuspend\fP(2), \fBsigwaitinfo\fP(2),
 567 \fBabort\fP(3), \fBbsd_signal\fP(3), \fBlongjmp\fP(3), \fBraise\fP(3),
 568 \fBpthread_sigqueue\fP(3), \fBsigqueue\fP(3), \fBsigset\fP(3), \fBsigsetops\fP(3),
 569 \fBsigvec\fP(3), \fBsigwait\fP(3), \fBstrsignal\fP(3), \fBsysv_signal\fP(3), \fBcore\fP(5),
 570 \fBproc\fP(5), \fBpthreads\fP(7), \fBsigevent\fP(7)
 571 .SH この文書について
 572 この man ページは Linux \fIman\-pages\fP プロジェクトのリリース 3.41 の一部
 573 である。プロジェクトの説明とバグ報告に関する情報は
 574 http://www.kernel.org/doc/man\-pages/ に書かれている。